土蜘蛛とアイヌの関係性について

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3 years ago
『古代蝦夷風俗之図』。公有画像。

アイヌとは北海道の先住民である。この民族は東北地方にも住んでいた可能性がある。日本の民話の中にはこの民族に言及していると考えられるものもあり、特に、大和民族による日本列島の人々の征服から触発された『土蜘蛛』として知られている妖怪の物語に関連している可能性がある。 土蜘蛛は元々日本列島の大和民族以外のすべての人々を指すために使用された民族揶揄であった[1][2]。本稿では、アイヌの歴史的概観と土蜘蛛などの妖怪の概念を紹介し、土蜘蛛に言及された人々の中にアイヌが含まれるかどうかを問う。

『日高アイヌ之オムシャ図』。公有画像。オムシャとは、松前藩とアイヌの主従関係を確立するための誓約儀礼。

アイヌの民族は、狩猟採集生活を主とするオホーツク文化と農耕生活を部分的に含む旧石器時代の擦文文化が12世紀頃に混ざり合ったものを起源とする [3]。また、縄文文化と関係があるとも推測される。これは、アイヌが蝦夷(北海道)、樺太、千島列島に限定されていたことを示唆しているが、本州やカムチャツカにも生息していたという実質的な証拠がある[4]。兎に角、13世紀には、アイヌは蝦夷の大部分を支配し、ニヴフ人との戦争を通じて領土を北に拡大した(これはモンゴルの元との紛争に繋がった[5][6])。この時代、アイヌは本州にも移住し、貿易と紛争の両方に従事した日本人とも接触し始めた。次の数百年の間は、日本人が蝦夷南部に基地を設立し、アイヌを支配しようとしたため、両者の間で争いが続いた[7]。そしてコシャマイン首領がアイヌを組織し、日本の要塞である藻別と花沢を攻撃して占領し多くの日本人を虐殺した時に、本格的な戦争に突入した。紛争は続いたものの、1550年、松前藩の蠣崎氏が南蝦夷のアイヌ首領達と合意に至り、これにより松前藩は蝦夷にある基地を維持し、徴収した税金の一部をアイヌに支払うことを定めた。その後、アイヌは松前藩との交易を続け、それ以上の干渉をすることはなかった[8]。だが、江戸時代(1603〜 1868年)から、松前藩が蝦夷にある領土を拡大したためアイヌとの接触の機会が増えた。さらに天然痘などの病気の蔓延がアイヌの生活を圧迫し、日本の貿易への依存度が高まると同時に、日本人との対立も多くなった[9][10]。1669年、狩猟と漁業の権利をめぐる地域紛争により、アイヌ首領シャクシャインは、蝦夷全域のアイヌ人を集兵し、後に「シャクシャインの戦い」として知られるようになった日本人との戦争を開始した。この両者の最大の戦いは[11]、1672年まで続いた。和平交渉が始まると、松前藩の刺客がシャクシャインを暗殺し、アイヌ軍を無力化した。松前はさらに支配範囲を拡大し、多くのアイヌ人を奴隷化し人間以下として扱い、戒めによって抵抗の手段を奪った [12]。例として、アイヌ人が侍に会った時、即座に土に顔を付ければならず、違反する者は手討ちにされた[13]。

『半上弾正ノ忠新景 山椒魚退治』。公有画像。
『百怪図巻』による雪女の映像。公有画像。

妖怪とは、日本の民俗学・神話における超自然的な存在のことである[14]。これらの現象は、日本列島の歴史の中[15]にある自然や社会的な要素を暗示していると考えられる。良く知られている例として、子供を静水の中で狙うとされる河童や[16][17] 、旅人を凍死させると言われる雪女などの冬の精霊がある[18]。これらの妖怪は、大山椒魚[19](静水では幼児を食べる事ができるほどの大きさ[20])や低体温症による死者を連想させるものと言える [21]。

『源頼光土蜘蛛ヲ切ル図』。公有画像。

妖怪の中であまり知られていないものの一つが土蜘蛛である。名前は大まかに「地面の蜘蛛」と訳され、通常は巨大な蜘蛛や蜘蛛のような特徴を持つ人型の化物として描かれているが、大きな昆虫を模した変種も知られている[22][23][24]。この妖怪は、日本列島の奥地にある洞窟に生息し、縄張りに侵入した者を待ち伏せしていると言われている[25]。

土蜘蛛の起源には、アイヌとの類似性が見られる。この言葉は元々、大和民族の天皇に服従することを拒否する日本列島内の他の国々の人々に対して大和民族によって使われた差別用語であった[26][27]。これらの国々は、拡大する大和政権の存在に次第に圧倒され、同化して行った[28]。その結果、これらの人々は自分達の生活を維持するために遠隔地の前哨基地に逃げ込む必要があった[29]。「土蜘蛛」と言う言葉は、これらの諸民族を虫に例えて、征服活動を正当化するための蔑称として使われた。何世紀にも渡って、これらの人々が洞窟の中に隠れていた虫のような怪物になったと言う話が生まれた[30][31]。大和政権の支配者達は、大和以前の孤立した集落の根絶や制圧を目的として遠征[32]を繰り返してきたが、激しい抵抗にあった[33]。土蜘蛛が侵入者を激しく攻撃するといった話は、このような背景から生まれたと考えられる [34]。基本的に土蜘蛛と言う妖怪とは、歴史上の勝利者が創り出した政治風刺漫画である[35]。

アイヌの旗

この一連の出来事はアイヌ民族の歴史にも通じるものがある。アイヌ民族もまた、彼らを劣等で非人間的とみなした大和民族によって徐々に土地を奪われた[36]。それにより、アイヌ民族は蝦夷地に入植した大和人を何度も攻撃した。このことから、土蜘蛛と言う言葉やこの妖怪のモチーフと考えられる大和以前の諸民族の中にアイヌが含まれている可能性がある。アイヌは、同じく大和の征服戦争により消滅した『えみし』と混同されたとする[37]、論理的な可能性がある。主な違いは、アイヌが近代まで民族として存続できたため、完全な絶滅や消滅には至らなかったことである(それにもかかわらず、彼らが受けた文化的、言語的、物理的集団殺害はほぼ壊滅的なものであった)。

総務省のサイトによる、2019年4月19日に成立されたアイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律についてのスクリーンショット。

土蜘蛛と言う妖怪の成立の背後にある民族の中にアイヌが含まれている可能性があることにどのような重要性があるか、という問いに答えるのは難しい。しかし、一つの答えは、日本列島の大和以前の民族が認められていないことを指摘する事である。2008年6月6日[38]、日本政府はようやくアイヌを先住民として認め、過去の罪を認めた。しかし、この認定は、アイヌが絶滅の危機に瀕していた時期であり、また、先住民族としての認定を受けていないことが、長年に渡るアイヌ復興の妨げとなっていた(国連の「先住民族の権利に関する国際連合宣言」[39]では、認定された先住民族は自分達の言語を維持する権利があると規定されているため)。しかし、このような認識は、消滅して同化した大和民族以外の国々には決して当てはまらないだろう。


[1] Alt, M., & Yoda, H. (2012). Yokai Attack! Tokyo: Tuttle Publishing. pp. 60-61

[2] Japanese Mythology & Folklore. (n.d.). TSUCHIGUMO: JULY KABUKI – 蜘蛛の絲梓の弦 – The Spider's Web and The Stringed Catalpa Bow. Retrieved from Japanese Mythology & Folklore: https://japanesemythology.wordpress.com/tag/tsuchigumo-yokai/

[3] Vajda, E. (n.d.). The Ainu. Retrieved from: http://pandora.cii.wwu.edu/vajda/ea210/ainuNivkh.htm

[4] The Foundation for Research and Promotion of Ainu Culture. (n.d.). Together With the Ainu. Retrieved from アイヌ文化振興法•研究推進機構(アイヌ文化財団): http://www.frpac.or.jp/english/files/together_01.pdf

[5] Howell, D. (1994). Ainu Ethnicity and the Boundaries of the Early Modern Japanese State. Oxford University Press. Past & Present, No. 142 (Feb., 1994), pp. 69-93. pp. 76.
URL: https://www.jstor.org/stable/651197

[6] Asahikawa City. (2010, June 2). 第59回 交易の民アイヌⅦ元との戦い. Retrieved from Asahikawa City Museum site: http://www.city.asahikawa.hokkaido.jp/files/hakubutsukagaku/museum/syuzo/59-tatakai/59-tatakai.html

[7] Friday, K. (1997). Pushing beyond the Pale: The Yamato Conquest of the Emishi and Northern Japan , 23 (1), 1-24. pp. 2

[8] Howell, D. (1994). Ainu Ethnicity and the Boundaries of the Early Modern Japanese State. Oxford University Press. Past & Present, No. 142 (Feb., 1994), pp. 69-93. pp. 82.
URL: https://www.jstor.org/stable/651197

[9] The Ainu Association of Hokkaido. (n.d.). Ainu Historical Events. Retrieved from The Ainu Association of Hokkaido: http://www.ainu-assn.or.jp/english/eabout05.html

[10] Howell, D. (1994). Ainu Ethnicity and the Boundaries of the Early Modern Japanese State. Oxford University Press. Past & Present, No. 142 (Feb., 1994), pp. 69-93. pp. 84.
URL: https://www.jstor.org/stable/651197

[11] The Ainu Association of Hokkaido. (n.d.). Ainu Historical Events. Retrieved from The Ainu Association of Hokkaido: http://www.ainu-assn.or.jp/english/eabout05.html

[12] The Foundation for Research and Promotion of Ainu Culture. (n.d.). Together With the Ainu. Retrieved from アイヌ文化振興法•研究推進機構(アイヌ文化財団): http://www.frpac.or.jp/english/files/together_01.pdf

[13] Report From Kamakura. (2011, November 25). John Batchelor. Retrieved from Report From Kamakura: http://www2s.biglobe.ne.jp/~matu-emk/bachel.html

[14] Alt, M., & Yoda, H. (2012). Yokai Attack! Tokyo: Tuttle Publishing. pp. 7-9

[15] Ibid.

[16] Alt, M., & Yoda, H. (2012). Yokai Attack! Tokyo: Tuttle Publishing. pp. 28-29

[17] Dechert, S. (2014, July 7). BIZARRE JAPAN "RIVER MONSTER" NOT THE WORLD'S LARGEST SALAMANDER (VIDEOS). ( Sustainable Enterprises Media, Inc) Retrieved from Planetsave: https://planetsave.com/2014/07/07/bizarre-japan-river-monster-not-worlds-largest-salamander/

[18] Hearn, L. (1903). Yuki Onna. In L. Hearn, Kwaidan: Stories and Studies of Strange Things. Retrieved from Project Gutenberg: http://www.gutenberg.org/files/1210/1210-h/1210-h.htm#yukionna

[19] Chard, D. (Director). (2012). "River Monsters" programme 6 Series 3 [Documentary Series]. United Kingdom.

[20] Dechert, S. (2014, July 7). BIZARRE JAPAN "RIVER MONSTER" NOT THE WORLD'S LARGEST SALAMANDER (VIDEOS). ( Sustainable Enterprises Media, Inc) Retrieved from Planetsave: https://planetsave.com/2014/07/07/bizarre-japan-river-monster-not-worlds-largest-salamander/

[21] Alt, M., & Yoda, H. (2012). Yokai Attack! Tokyo: Tuttle Publishing. pp. 158-160

[22] Alt, M., & Yoda, H. (2012). Yokai Attack! Tokyo: Tuttle Publishing. pp. 58

[23] Foster, M. (2015). The Book of Yokai: Mysterious Creatures of Japanese Folklore. Berkeley: University of California Press. pp 129-130

[24] Iwai, H. (2000). 暮しの中の妖怪たち (Yokai in our lives). Tokyo: Kawade Bunko. pp. 156

[25] Alt, M., & Yoda, H. (2012). Yokai Attack! Tokyo: Tuttle Publishing. pp. 58

[26] Alt, M., & Yoda, H. (2012). Yokai Attack! Tokyo: Tuttle Publishing. pp. 60-61

[27] Japanese Mythology & Folklore. (n.d.). TSUCHIGUMO: JULY KABUKI – 蜘蛛の絲梓の弦 – The Spider's Web and The Stringed Catalpa Bow. Retrieved from Japanese Mythology & Folklore: https://japanesemythology.wordpress.com/tag/tsuchigumo-yokai/

[28] Friday, K. (1997). Pushing beyond the Pale: The Yamato Conquest of the Emishi and Northern Japan , 23 (1), 1-24. pp. 5-7

[29] Friday, K. (1997). Pushing beyond the Pale: The Yamato Conquest of the Emishi and Northern Japan , 23 (1), 1-24. pp. 7-10

[30] Alt, M., & Yoda, H. (2012). Yokai Attack! Tokyo: Tuttle Publishing. pp. 60

[31] Foster, M. (2015). The Book of Yokai: Mysterious Creatures of Japanese Folklore. Berkeley: University of California Press. pp 129-130

[32] Friday, K. (1997). Pushing beyond the Pale: The Yamato Conquest of the Emishi and Northern Japan , 23 (1), 1-24. pp. 1

[33] Friday, K. (1997). Pushing beyond the Pale: The Yamato Conquest of the Emishi and Northern Japan , 23 (1), 1-24. pp. 23

[34] Alt, M., & Yoda, H. (2012). Yokai Attack! Tokyo: Tuttle Publishing. pp. 60

[35] Alt, M., & Yoda, H. (2012). Yokai Attack! Tokyo: Tuttle Publishing. pp. 61

[36] Vajda, E. (n.d.). The Ainu. Retrieved from: http://pandora.cii.wwu.edu/vajda/ea210/ainuNivkh.htm

[37] Friday, K. (1997). Pushing beyond the Pale: The Yamato Conquest of the Emishi and Northern Japan , 23 (1), 1-24. pp. 4

[38] Umeda, S. (2008, September 5). Japan: Official Recognition of Ainu as Indigeneous People. Retrieved from The Library of Congress: http://www.loc.gov/law/foreign-news/article/japan-official-recognition-of-ainu-as-indigeneous-people/

[39] United Nations. (2007, September 13). United Nations Declaration on the Rights of Indigenous Peoples . Retrieved from United Nations Department of Economic and Social Affairs Indigenous Peoples: https://www.un.org/esa/socdev/unpfii/documents/DRIPS_en.pdf

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Comments

I don't understand the language of Japan but all I can say I really love and appreciate this country for making a lots of anime,, especially hunter x hunter

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2 years ago